そういえば着替えなどをそろそろ、と思っていた。シエスがそれに気づきそれからイーサンのこともあって、カオルとともにやってきたのだろう。シエスのせいではないし、カオルのせいでもない。


 あの脳筋魔術師め…。


 しかし、とフェルゼンはそばに立っているアレスを見た。深い青色の、顎辺りで切り揃えられ髪の毛がさらさらと揺れ「で」とこちらを見た。背後ではまだ団員の怒鳴り声がしているなか、ここだけはなんだか異質である。

 アレスは事情を知っているため、「彼女が例の?」という。



 フェルゼンがキリアールから帰ってきてから、カオルとニーナについて後に面倒なことにならないように根回しをした。アレスもキリアールからつれてきた人物がいることを知ってはいるが、会うのはこれが初めてである。



「…そうだ。もう一人は邸でメイドをしている」

「成る程。だから閣下は最近よく自宅に帰られるのですね」

「別に俺は」



 言葉を遮るような雷鳴。雨が降り続く。



「閣下、この天気で帰すおつもりで?」

「…………行ってくる」



 邸までは距離がある。雨が降っているし、雷も鳴っている。わざわざ来てもらったのはいいが、不安が残る。指摘されたそれに大丈夫だとはいいきれず、追いかけることにする。


 走るようにして追いかければ、すぐだ。傘を差したシエスとカオルを見つけて「待て!」と声をかける。

 無駄に響いた声に、建物内にいた団員がぎょっとした顔をしたが、フェルゼンはそんなことよりもカオルへと近づく。


 すでに外に出ていたカオルは、え、という顔をした。フェルゼンが濡れないように傘を高い位置にあげて入れるようにしていた。