どうせあの脳筋のことだ。訓練している連中を見て、武術に目覚めないかと思ったのであろう。カオルは女だし、目覚めないだろうに。
 社会化見学するならもっとこう、あるだろうとフェルゼンはため息をつきたくなる。そもそも普通、この天気で出すか。


 そこにいたのはカオルだった。


 こんな天気なので、外套にブーツ姿だった。荷物は鞄で、着替えらしいのはわかった。わかったが、とはっとする。隣にいて黙っているアレスの目には興味、背後では打ち合いの音こそ聞こえるが、間違いなくこちらを見ているはず。


 参った。
 ものすごく、参った。


 ただでさえ顔立ちがこの辺りでは見かけないし、童顔の女であるカオルは目立つ。着ているのはフェルゼンが贈った服。

 似合うな、などと思っている場合ではない。化粧してるのか、などと見ている場合でもない。


 突然服の不快さが消えた。目の前では荷物を抱えた両手の、片方の指先がこちらに向いている。表情には、何故こんな天気にといったような顔。



「びしょ濡れだったので…その、平気ですか?ちゃんと乾いてますか?」

「あ、ああ…もうここまで出来るのか」

「便利だよって教えて貰らって、練習しましたから」

「そうか…じゃなくて」



 アレスの視線が刺さる。



「坊っちゃん、荷物はいつもの通り置いていきますからね」

「あ、ああ。わかった。助かる」



 行きましょう、とシエスがカオルに促していく。カオルは軽く頭を下げて、シエスについていく。やがてその背中は消えていった。