アレスは見た目が文官、軍人らしくない。よって初対面だと文官上がりがと侮られてしまったり、新人でも腕に自信がある者は彼のことをやや見下すこともある。
 
 が、彼らは手合わせをして後悔することになるのだ。

 その事実を知る団員は、アレスを恐れる。魔王だ、などともいっている。確かに魔王みたいだなと頷いたフェルゼンに「なら貴方は大魔王でしょう」と。

 団員は否定しなかった。




 建物から出ると、稲光。轟音。すさまじい天気である。一般人なら間違いなく家でおとなしくしている天気だ。

 そんないかにも化け物が出そうな日に、フェルゼンは気まぐれに訓練場へと足を踏み入れるとどうなるか。

 団員が「で、出た魔王!」などとひいひい言う。



「誰が魔王だ馬鹿者。止まるとさらに増やすぞ!」



 フル装備に加えて雨に濡れている重さ。走っていた団員が「止まってません!」と泣きそうな声で返してくる。

 魔術を使えば、実はいうとべしょぬれにならないまま訓練は出来る。が、いつもいると思うな魔術師、である。


 ここでアレスなら高らかに訓練の追加を宣言するだろうが、とフェルゼンは雨に濡れながら走る団員や、打ち合いをしている者を見ていた。
 ただでさえきつい訓練。今日は追加せず黙っていた。




 さてどうさしたものか。


 この天気で邸に帰れば、もちろんべしょぬれである。フェルゼンは簡単な魔術は使えるものの、それだけだ。カシェルやイーサンのような力はフェルゼンには使えない。

 別にフェルゼン自身は気にしない(フェルゼンも悪天候での訓練はしているので)が、出迎えたカオルはどうだろう。ぎょっとするのではないか。