男は女を敬う。女も男を敬う。
包みが渡され、支払いも済むとあとは帰るだけである。
――――これがフェルゼンの日常になりつつある。
家に帰ると、ウジェニーら以外に珍しい顔立ちの女。最近は笑うようになった彼女。
魔術師として勉強している彼女を見るのが愉快だった。初めてのものに驚く顔や、意地悪めと怒る顔も。別に家に帰らなくても街には生活できるものも場所もあるのだが、やはり帰れるのなら帰るようになっていた。
「おかえりなさい。遅かったのですね」
「ああ…カオルは」
「もうお眠りになったようですよ」
「そうか」
邸についたころにはすでに夜遅くだった。出迎えたシエスが「カオル様のことですか」と続ける。
「これからどうなさるのです?」
「そうだな…このまま居るわけにもいかないだろう」
「妙齢な女性をほっぽりだすことはしないでしょう?」
「魔術師として落ち着いたら、本格的にカシェルの弟子として入る手もある。イーサンでも構わないが、あいつは脳筋だからな…カオルに移りそうだ」
自室で上着を脱ぎ、シエスに預ける。窮屈な首もとのボタンを外す。
「いい人ですね」
「どうだろう?たまに悪どいことを考えてるぞ?」
ソファで行儀悪く足を伸ばして寝ていたフェルゼンの髪の毛にピンクのリボンを下げようとしたのはつい最近である。馬鹿みたいに逃げたカオルが何だかおかしかった。
笑みが溢れたフェルゼンだったが、シエスにいわれたことを考えていないわけではない。
ただ―――。
きっと、彼女がこの邸を出たら寂しくなるななどと思った。
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