「閣下、これからどうされます?」

「家に帰る。これでは動けないだろうしな」

「でしょうねぇ」

「なんだ?」

「ああ、いえ。なんでもありません」



 やや意味ありげなアレスを置いて、騎士団内を進む。竜の国であるスフォルでは、騎士団も規模が大きい。なんせ竜自体が大きいのだ。狭くては意味がない。

 フェルゼンの自宅は都からやや離れた場所にある。もともとの本邸はまた離れた場所にあり、首都に近い場所の邸は別邸であった。首都に用事がある際に使用されていたのだが、今はフェルゼンが使っていた。

 バイロイト地方、辺境に当たる場所の領主を勤めるのがシャエルサーン家であり、本邸もまたその場所にある。
 帰ってきたことを報告はしたものの、まだ足りないのか手紙が来ていた。どうにかしなければ突撃してきそうだとフェルゼンは苦く思う。

 アッシュがこちらに気づき、首をあげた。



「…帰る前にガルンデラウーナに寄るか」



 街にある、有名なお菓子の店がガルンデラウーナなのだが、カオルはよく噛む。しまいには覚えるためにとメモしていたことを思い出した。


 フェルゼンが街に滞在している間は、カオルは邸でなにをしているのか。

 聞けば、散歩と読書とウジェニーらの手伝いだそうだ。鞄には本とメモ、それからたまにお弁当などをいれて敷地内をうろうろしているらしい。フェルゼンもまたその姿を見たことがある。


 若い女性なんですよ、などとウジェニーに言われているため、たまに街に連れ出しているのだが…まだ慣れないらしい。あまり見かけない顔立ちは人の視線を向けられてしまうそれも、苦手らしいのは知っている。


 つまらなくないのか、と聞いたらカオルは首をふった。カシェルやイーサンがやってくるし、使用人らの手伝いをするのも楽しいと。

 あれでは年寄り、隠居ではないのか。などともらしたフェルゼンを小突いたのはウジェニーである。なら外に連れ出してあげろということらしい。



 ガルンデラウーナは人気店である。お菓子を扱うということもあってか、女性の姿が多い。

 一瞬フェルゼンが入ると視線を集めたが、何事もなかったかのようになる。目立つのは騎士団服のままだからだろうし、厳つい顔をしているのは自覚している。フェルゼンは店員に適当に見繕ってもらう。その間に男性が包みを受け取り勘定をしていく。片方の手には花。



 この国では、男が女のもとに行く、または会うさいに花や菓子を持っていくことが多い。キリアールとは違い、考えてみるとスフォルでは女性を大切にしている傾向があるのだ。


 何故か?
 それはもちろん、この国の始祖が"黒髪の女"と竜であるというのも関係がある。