初めてフェルゼンを見る新人が慌てている。新人が青ざめているのは、フェルゼンの隣にいるアレスのせいだ。



「久しぶりに俺が相手をしてやろう」



 腰にさがる剣は、お飾りではない。

 久々に母国に戻り、自由さを感じている。気分がよかった。だがフェルゼンの気と反比例し、団員は青ざめていく。
 声が上がった。



「団長!俺らを殺すつもりでありますか!」

「ついさっきルルード副官にぎたぎたにされたばっかであります!」

「自殺はしたくありません!」

「では私がっ!」

「脳筋は黙ってろ!これには明日がかかっているんだ!」

「あの、何故そんなに…」




 ――――新人の呟きが消え、暫くの間悲鳴と怒声が場に響いた。

 近くを通った人物がぎょっとするほどであるのはいつものこと。

 ゼレンダール赤竜騎士団の名物である。鬼、魔王、魔神、鬼神、化物などなど呼ばれる団長は容赦ない。すべては実戦で死なないためであるのだが、訓練でも生傷は絶えない。


 団長の副官をするアレスは見た目が文系だ。だからといって油断すると痛い目をみるだろう。

 アレスはついさっき動いたばかりなので、フェルゼンに団員らが倒されていくのを黙ってみていた。ただ見ているのではなく、入ったばかりの新人をとくに見ていた。入ったからといって容赦はない。むしろここが重要であったりする。何事も基礎は大事だ。

 とはいえ、誰が落ちるかはなんとなくわかるものの、誰が使えるようになるかはわからない。


 フェルゼンが剣をおさめた頃には、死屍累々のごとくへばった男たちが転がる。爽快な顔をしているのはフェルゼンと、アレスのみである。フェルゼンは暑くなったため上着を脱いで、一息。

 スフォルに戻ってきて暫く。

 戻ってきてからは、忙しい日々が続いた。カオルとニーナの、スフォルで生きていくための手続きをしたり、自身の帰還についてなど慌ただしかったのである。よって騎士団の団長として復帰したが、相手をするのは久しぶりであったのだ。
 体は鈍っていない。