スフォル=レンハーザ竜王国の名だたる騎士団の一つであるからには、並みの強さ意味がない。



「なら、地獄にしてやろう」



 書類をもとに戻す。
 室内から出ると、「キリアールはどうだったんです?」とついてくるアレスが問う。



「竜がいないのと、貴族は甘いものが目立つな」

「成る程。異教徒の国ではありますが、手合わせは?」

「かなり加減して、な」



 フェルゼンは身分を隠していった。目立つ行為は避けた方がいいし、強さもまたそうだ。
 こことは違う文化の国。そこで過ごした日々はいい経験であったのは間違いない。それに、と脳裏に歳の割には童顔の女が浮かんだ。
 


「御母堂の出身国でしたね、キリアールは」

「ああ。実家はすでにないから、俺のことは放置に近かった」



 フェルゼンの母はキリアールから政略結婚として嫁いできた。言葉も違う、しかも竜がいる、キリアールからしたら野蛮な国に。
 だが、キリアールでよりもここスフォルで過ごしている日々の方が幸せである――とフェルゼンは聞いたことがある。

 そんな母の実家は没落し、すでにない。それに留学の仕方も少し変えたので、フェルゼンが本名でいってもたいした注目は浴びなかったのである。



「キリアールは勿体ないことをしましたね。せっかくシャエルサーンの者と繋がりが持てたかもしれないのに」

「眼中にないのだろうさ――――」



 愉快げに笑うアレスとともに、騎士団の訓練・鍛練場へと足を踏み入れる。すでに男たちが剣や槍をふるい、声をあげている。中には女性も混ざっていて、男を圧倒していた。

 キリアールでは主に男性社会といって
よかったが、スフォルでは女性も活躍する国である。
 強ければ騎士団にも入れるし、役人にもなれるのだ。


 広い敷地に、声。凝ったデザインの服。言葉。全てがしっくりくる。



 気づいた部下らが動きを止め「団長!」などというが、「誰がやめろといった」というフェルゼンの声に背筋が延びる。その顔には青ざめ。鬼が二人もいるのだ。仕方がない。