▼16 日常になりつつある
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詰所の一室。壁にはゼレンダール赤竜騎士団の旗と、スフォル=レンハーザ竜王国の国旗がかかっている。
「実に平和なものですよ。大きな事件はありませんでしたし。あったとしたら魔物討伐くらいでしたね」
国旗らを背景に、椅子。机。
椅子には騎士団所属の服を纏った銀髪の男が腰かけていて、書類を見ている。その近くでは、同じく騎士団所属の服を纏った男が銀髪の男――フェルゼンへと言葉を発していた。
「しかし、ほっとしましたよ。中々帰ってこないんですから」
「お前が?むしろ喜んでいたのでは?」
「部下たちは喜んでいたようですがね。鬼がしばらく居ないと」
「想像できるな」
「ご心配しなくても、私が叩き潰し―――じゃなくて、鍛えてましたからまあまあだとは思います」
「潰してどうする」
そこまでだったということですよ、という男―――アレス・レネン・ルルードという。深い青色の髪がさらりと流れた。
アレスはフェルゼンの部下であり、副官である。よってフェルゼンがキリアールへと留学中には彼が騎士団の管理をしていた。
優秀な男で、フェルゼンがこうして帰ってきても仕事は山積みではない。楽をしている。
今アレスが話した、叩き潰した云々は新人の話だ。毎年志願者を募集し、集まると
ふるいにかけるのである。厳しい指導に堪えきれず辞めるものもいるのはいつものことだ。
フェルゼンは容赦ない指導をする。よって鬼やら魔神やら鬼畜などなど言われているのだが、このアレスもまたたいして変わらない。
フェルゼンに比べると文官のような容姿だが、「今ごろ阿鼻叫喚と化してるでしょうね」というとおり容赦ない。そして今、フェルゼンが帰ってきたことにさらに阿鼻叫喚、というわけである。