邸周辺には自然が広がっているが、魔物が出ることはない。魔物避けがされているのだという。
 たまにカシェルやイーサンが点検しにきている(普通は、自分でやるか魔術師に頼むらしいが)そうだ。よって私でもふらふらと出歩けるのである。



 散歩しながら、あれこれと考える。一人の時間。


 カシェルから聞いた美桜と翔の話は、キリアールでのことを思い出された。旅に出ているという彼ら。もしかしたら私も行っていたかもしれないそれ。

 もし、私も美桜らと同じようにすぐ力に目覚めていたらどうだっただろう。フェルゼンとは?カシェルとは?


 もちろん、出会えなかっただろう。
 後悔はしていない。
 むしろ、これでよかったんだと思う。


 ニーナは生き生きと仕事をしているし、私も私で窮屈さから抜け出して、自由を得た。大変なことも多いけど、キリアールより楽しい。

 魔術はまだまだだが、少しずつ上達している。防御のための術を勉強中だし、竜に乗るのもまた特訓中である。ゆっくりでいいなら、ゆっくりやる。出来ることはする。それでいいだろうか。



 しばらく散歩して、邸の方へと戻る。庭師が手入れをしているのを見ながら、フェルゼンの姿とシエスの姿を発見。




「フェルゼンさん、戻っていたんですね。おかえりなさい」

「どこにいたんだ?」

「散歩ですけど…、どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。さっきウジェニーにガルンデラウーナのお菓子を渡してあるから、準備して貰うといい」

「ガルンデ…って、この前のあのおいしいお菓子ですか?」

「ガルンデラウーナ、だ。カシェルが食い散らかしていたやつ」

「うわ、楽しみ。フェルゼンさんも食べますか?」

「ああ。着替えてからいく」



 まだびしりと着込んでいるフェルゼンが頷くのを見ると、今度はウジェニーのもとへいく。ウジェニーはすでに「お茶の準備でしょう?」といって、テーブルに準備していた。

 最近、フェルゼンはお菓子だったり本だったり買ってくる。お菓子は私だけではなく、ウジェニーらも食べるので買ってくる率が高い。あのフェルゼンがお菓子屋に入るのか、と想像した。本人もまた甘いものが嫌いではないそうなので、一緒に楽しむこともある。