彼はカシェル・ルドゥ・アウルダート。この中で一番身分の高い貴族出身で、あの脳筋ことイーサンとも友人であるため、見慣れたものらしい。


「あーあ、子供の喧嘩みたいだなぁ。しまいには触った触ってないとかいい始めるんじゃない」

「止めなくていいんですか」

「いいのいいの。面倒だし。あ、ニーナこんにちは。お茶いいかい?」

「ご用意しますね」



 庭先にはテーブルや椅子が運ばれていて、ニーナがお茶を用意する。その奥ではフェルゼンと、嬉々として剣術を繰り出しているイーサン。
 私は剣術とかさっぱりだが、フェルゼンは団長をやっているから強いのは当たり前だろう。そのフェルゼンとやりあっているイーサンはどうなのか。見たところ、魔術師というより剣士の方が似合っている。
 


「ミオ達は一応、旅を続けてるみたいだよ」



 椅子に腰掛け、カシェルは静かにいう。久しぶりに聞いた名前だった。それだけ忘れられてたということか。


「各地の魔物を倒しながら、あちこち顔出してるみたい」

「そう、ですか」

「好き勝手なのは事実みたいだよ。同行者は二人にぞっこんだろうけれど、どうだか―――」



 フェルゼンの「今からでも魔術師から剣士にでもなれ!」という言葉が聞こえる。


 しかし、そうか。


 あの二人はいわゆる、ハーレムを形成しているのは変わらずなのか。旅先でなら、そこで出会った人も対象となっているのだろう。

 キリアールとスフォルまでの間には距離があるのは、スフォルまでの旅で理解している。なのでこの情報はどうやって、と思う私にカシェルが「大国は密偵を放ってるものさ」と、ちょっと恐ろしいことを口にしたためぎょっとした。

 日本人として、密偵やらスパイやらは映画の中の話という感じで、あまり身近なものではない。実際いるのかさえ、日本の場合はわからなかった。だがスパイものの映画で有名なのはいくつかあるし、と俳優がちらつく。



「まあ、僕の場合は弟子が教育官としてキリアールにいるからねぇ。話は入ってくるのさ」