「おはよう!」
がやがやと喧騒の中、親しんだ教室へと朔と並んで足を踏み入れる。朔のことを熱っぽい瞳で見つめては騒ぐ、たくさんの女の子が大変嫌なので、見せつけるようにつないだ手を掲げようとすれば。
「そんじゃ」
神速の如く神技で、手を振りほどかれ、同じ教室なのにすたすたと前を歩いていってしまう朔。
冷たい朔に落ち込む心と、ついさっきまで見せてくれてた可愛い朔を思い出しては、暴れだす心。今日のテンソンを決めかねて熟考していれば。
「おはよう、飽きないね」
「岬!」
下へ上へとゆらゆら揺れていた心が、ぱあっと急上昇する。そこに立って、小さく笑っているのは、一番の友達である岬。
瞬間、少し前にいた朔の肩がぴくりと揺れる。ちなみにこれは毎日の朝の光景で、付き合いはじめた頃なんか、私が岬を呼ぶと驚いたようにこちらを振り向くぐらいだった。
岬に失礼だから、やめてよと何度も言ってるのに、その度合いは抑えられつつあるもの未だに反応を示す朔。それを見て、いつも頬を膨らませる私とは反対に、当の岬はその度、楽しそうに笑う。
嫌じゃないの?と聞くけれど、なにやら嫌な含み笑いをして、黙って首を振るので、良しとしてる。ううん、岬が知ってて、私が知らない朔のことって考えるともやもやしちゃうから、触れないようにしてる。
さりげなく、朔にも聞いてみたけれど、珍しくどもったうえに、目の前の電信柱に勢いよく頭をぶつけたので、朔のなんか諸々を守るためにもそっとしておく。
…いつか、教えてくれると嬉しいけど。