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「ああっ!」
前方に見えるはもしかしなくても!!
「朔!」
「すみません人違い」
「おっはよう!」
「…ちっ」
舌打ち?!
彼女に向かってなんてことを…!
「朔の馬鹿」
「そーですね」
ふあぁとあくびを漏らす、わが彼氏様は朝が苦手。だけど、私は知ってます。
朔、と呼ぶ私の声が聞こえると、ゆるりと速度を緩めて、私が追いつくまで待ってくれていたことを。
ぎゅうっと愛おしさがこみ上げてきて、長い指を口元にあてて、あくびをかみ殺すその横顔を静かに見つめる。
ちらりと大きな瞳が揺れて、横目で視線を走らされる。形の良いまゆがくいっと上がって、朝早くから彼氏に睨みを利かされるけど、それでも私は幸せです。
冷たい視線に笑顔で応えると、ぱっと逸らされてほんのり赤く染まった耳が私の視界に入るから。嬉しくなって、くすりと小さく笑えば、ムッとしたように朔が私の手を思い切り引く。
「えへへ」
「きもい笑うな」
「こんなに幸せなのに?」
「何故」
「だって朔と一緒だもん!」
「…お願いだからしゃべらないで。」
私の右手を握る左手はそのままに、空いている大きな右の手で、朔は顔を覆うけど、隙間から除く真っ赤な頬にやっぱり私は幸せになってしまうの。
「大好きです!ちゅーもくれたら嬉しいな!」
「ははっ、死のうか」
隣を歩く、冷たい男の子は私の彼氏。