さいごの夢まで、よろこんで。



「今日はどこに行くの?」

週末、でかける用意をすませて玄関に向かうと、リビングからお母さんが顔を出した。

「今日は水族館。けっこう混むらしいから午前中から行こうって」
「そう。いいわねえ、お母さんも行きたい」
「今度一緒に行こうよ。今日、楽しみ方研究してくるから」

お母さんは、余命を告げられてからしばらく、元気がなかった。
当然といえば当然だけど、私は、せっかくなんだから残りのあいだ、笑っててほしかった。私も笑ってるから、お母さんも笑っててよ、って。
でも最近、私が毎週のように、楽しそうにでかけていくのを見て、嬉しそうにしてくれるようになった。

「楽しんできてね」
「うん、いってきます」

元気な姿を見て、それがうつったなら、こんなに嬉しいことはない。



「わ!すごい見て!この魚光ってる!」
「いちいち言わなくてもちゃんと見てるって…」

水族館は、案の定混み合っていた。
そのほとんどが親子連れかカップルで、肩車されている男の子や、彼氏に手を引かれている女の子を見て、微笑ましく思った。

「こんな小さいのに、こんなに綺麗に光って、自分の存在を主張してるんだよ。…かっこいいなあ」
「羨ましいならお前も光る服でも着たらいいだろ」
「そういうことじゃないんだって!もう!」

翔太は、こうして一緒にでかけるときはいつも、私の隣か、少し後ろを歩いた。
おかげで私より足の長い翔太に置いていかれることなく、心置きなく見て回ることが出来る。
翔太いわく、「後ろから見てないとお前が迷子になりそうで不安」なんだそうだ。
反論したいところだけど、人混みの中で先々歩かれても困るので、何も言わないことにした。