棒があれば間違い無くヒットし得た筈を
効き手を押さえていた手で着衣が剥がれ
る。かあっと発汗するナグサに声がした。「その方、倒しますよ」シンラだ。「客人よ時読みの継承の邪魔をするか」
「おじさん嫌がられてますし」時読みとナグサに割って入るシンラ。「文明人としては嫌がる近親婚はどうか」と思うね。「扱いを間違えたようだな」と時読み。「よかろう。今夜だけは見逃そう」但し、明日はないぞ。堂々と物怖じもせず、時読みはテントから去った。「見るな」ナグサの肩に手を乗せたシンラにナグサが言った。着衣が乱れてる。慰安婦扱いされた様な眼差しで吐き捨てたナグサの頭をかいぐりかいぐりしながら「泣いていいよ」懐は貸すからさ。ナグサはシンラの胸で泣いた。
父さま父さま
知らず知らず漏れる囁きにシンラは真摯な眼差しを宙にすえた。

思えば、ナグサにとって時読みになる為の今日までであった。
それが一言で無残したのだ。かといって、それ以外の選択肢を持つわけでは無い彼女。シンラが提案するのにもそんな訳があった。「ナグサ。王宮外交カナヴァ家に仕えてみませんか」贅沢はできませんが己の貞操ぐらいは守れますよ。泣きじゃくってたナグサはじっとシンラの目をみた。本気の目だ。
「迷いがあるなら即行動」時読みは追っ手を出さないとは言わなかったですし。シンラの態度にナグサは、解らないけどありがとう。と呟き身の回りを整え出した。薬と衣類と棒と羅針盤それだけだ。シンラはというと、荷馬車に米と肉それから衣類に剣を数本。

供の者に迷惑がかからぬ様にシンラ個人とナグサ個人の駆け落ちの旨記した手紙を目につく所に並べ落ち着く間もなく馬を駆り立てた。

草原は広大で朝日が差しても向けきる事はなかった。十六年育ったそこだけの世界に後ろ髪惹かれながらもナグサはシンラと出てきた事に後悔はしてなかった。
日が二人を追っかけてくる。
どれくらい村から離れたのだろう。
まだ村人には気づかれてはないだろうか。追っ手が心配だ。
また置いて来た供の身も心配だ。中には婚礼の儀を終え部族になった者も居る。だが、意見が割れてる暇も無ければ、説得してる暇も無い。そして、シンラ達は時読みの継承とは何だかを薄々悟ってた為、個人的な駆け落ちは説得力があると思われた。
時読みが王宮と事を構えたがってるとは思えない。一旦王宮内に入ってしまえば、こちらの思う壺だ。シンラは迫はつかないのだが、任務は遂行し