生まれた。
その子はナグサパメラと名付けられた。
一子相伝の時読みの家系で、一族を束ね、司となるその一族が求めた者が男子だが、その子は女の子であった。
だからだろうか。皆はナグサを男の子扱いしたし、その容姿 もきちんと男の子に 見えた。
その事が彼女の誇りでもあった。
それは民を導く時読みとして、薬師見習いをしていた時だった。
都から派遣団が来たのは。
派遣団とはこの草原とは違う王宮がよこした調査隊で、ゆくゆくは侵略を目的としたものだけど、現時点では狩猟や農作でえた物を絹や酒と交換するといった貿易が行われてるにすぎなかった。その中にお坊ちゃんらしい青年がおり、ナグサに好意を寄せてか、用も無いのに付きまとった。彼の名はシンラカナヴァと言い王宮外交カナヴァ家の跡取りとして頼りがいがある人物として印象づける為の今外交だった。
ナグサはシンラに聞くとシンラは笑って誤魔化すクセがあり、困ってしまうのだが。棒術の授業の時も薬草刈りの時も、薬草の実地訓練の時も、舞踏の訓練の時も、ちゃっかり側に控えているのだ。
一度言った事がある。「王宮外交カナヴァ家の御子息がこんな所で油売ってる場合じゃないだろう」すると「ですから、ナグサの側が一番落ち着くんですってば」と照れ笑いをしながら。
この分だと正妻のベビーシッターにまでされるんじゃなかろうか。いかんいかん私は時読みになると言う務めがあるだろう。坊ちゃんシンラのペースではいけないと思うナグサであった。

それは満月。血の色をした大きな月。

嫌な予感がした。
誰一人居ないテントで、いつもは居るはずの薬師達や棒術見習い仲間が誰一人としていない。シンラもそうだ。
いきなり組み敷かれそうになった。ざわざわと草がなびく。ナグサは棒術の構えをとって見えない敵に威嚇する。すると相手が話しかけて来た。「ナグサ不憫な子よ」「その声は父君ですか。ならば何故この様な事を」返すナグサの右手首を抑えた時読みに爪をたててあらがう。「星が悪いのだ。次代時読みを大至急必要とする。ナグサが嫡子であればこの様な事をせずとも良いのだが。
時読みは男系が必定。私の子の母になってくれ」
衝撃的な告白にナグサは泣いた。「十六年も私を欺いたのですね」「時読みにするって教育されながら」きっと見つめ「私が一番尊敬していた者をこれ以上辱めるな」爪が血で染まる。