そのサイトは、富井明日香が通うデザイン専門学校で、南米出身日本育ちの同級生のエリザベスに教えてもらったアート投稿サイトであった。日本国内ではあまり聞かないサイトの名前だが、「世界のアーティストの間では有名だよ!」と推されて、今日の授業が終わった後、二人で学校の近所のファミレスの一角に座った。
「うわー……、オール英語じゃん……。」
「そうだよ! アメリカのアート投稿サイト!」
ベスがピーチソーダの甘みを楽しみながら、明日香のスマホを一緒に覗き込んだ。明日香は目の前のアイスコーヒーのブラックと同じ心境である。
高校を卒業して早一年半、もともと英語の苦手な彼女は、今では簡単な英語の単語と文法しか覚えていない。ギリギリ赤点という程だ。
「明日香、大丈夫! 私もしているし、教えるよ!」
南米特有のベスの明るい性格に今回も心が癒されと、今日もまた彼女に抱きついた。彼女も明日香をぎゅっと強く抱き返す。
「ベス~! ありがとう!」
「明日香~! 頑張って!」

そのサイトは、実際使ってみると、日本のアート投稿サイトと大して変わらなかった。自分のアートのデータをサイト上に投稿したり、他のアーティストのアートを閲覧できたり等、無料で利用できるコンテンツ。そして、広告を非表示にしたり、閲覧したいアートの閲覧を検索しやすくしたり、閲覧した他のアーティストのアートを印刷できたりする等の、有料でできるコンテンツがある。
初心者の明日香は、まずその無料コンテンツから覚え、そこの必要な英語表記から覚えれば良いのだ。
ファミレスで苦めのコーヒーを飲んでから三日目の夜、明日は日曜日なので、明日香はベッドの中で少し夜更かししながら、今日もそのアートサイトとにらめっこしていた。下の部屋の、母親の観るサスペンスドラマの音も、もう聴こえてこない。それでも、外からの車の通過する音や人の声、犬の鳴き声などが聞こえれば、寂しさはさほど感じない。
そして、まだ7割もシステムが理解できていないこのアート投稿サイトで、四苦八苦して何とか彼女が作ったアカウントに試しで投稿した絵へ、時間を置かず一通のメッセージを送った、「Philip Hopkins」と名乗る者が、インターネットの網の先のパソコンの向こう側に居るからだ。