スッと頬を撫でられる感覚に、椿は目を覚ました。


枕が濡れているのが分かり、幾度となく見た夢をまた見ていたのだと、ボンヤリとした思考の中で確認する。


「どうして泣く。」


不意に頭上から落ちてきた声に視線を動かすと、自分を見つめる真っ黒な瞳を持つ、全体的に真っ黒な・・えー、人間に二本の角を生やした奴を発見した。


「・・・・。」


「おい、まだ寝ているのか。」


その黒い奴は私に顔をグイと近づけ、目をのぞき込んでくる。


近い近い近い近い


それ近すぎて逆になんも見えねーだろ!


「・・・あの」


「なんだ」


相変わらず距離は近すぎるままだ。


「近いです。」


「そうか。」


・・・返事はあるもの、距離は変わらない。


いや息!かかってるんだけども!


「はい。」


「なんで泣いていた。」


「え?」


その話、この距離でしなきゃダメか?てかお前だれだよ。その角なんだよ。


「答えろ。」


「か、悲しい夢を見たから・・・?」


有無を言わさぬ追及に思わず答えたが、状況を把握できず、混乱のあまり疑問形でこたえてしまう。


「そうか」


とりあえず、納得はしてくれたようだ。


近いままだが。