——拓海しか見ていないのは私のほうなのに。彼のことが好きで好きで、好きすぎて不安になるほどに。


「……心配、しすぎたのかな」

「たまにはピリッと辛いスパイスも必要なのかしら?んー、私のところは平坦だしなぁ」

「……ふふっ、菫の旦那さまは優しいもの」

「それを言うなら、蘭の旦那さまに敵う男はいないわ。私が断言する」

「ありがとう。拓海は素敵な人だから、本当に私にもったいないよね」

東条グループの嫡男の彼は統率力に抜群のリーダーシップと頭脳を持ち合わせている。

日本経済自体が苦境に立たされているけれど、拓海率いる東条グループに不安要素はないとニュースでも報道されていた。

そんな才能溢れる人が私の旦那さまでいいのかな、なんて疑問はきっといつまでも消えないもの。


「……それは違うよ。蘭あっての東条さんだと私は思う。東条さんが輝けるのは蘭が隣にいてくれるからでしょ?——蘭を嫁に出した立場だもん、よーく分かるわ」

その言葉がストンと胸に落ちていく。——不釣り合いと思うほうが愛してくれる彼に失礼でしょう、と。

海外で行った私たちの結婚式に快く参列してくれた菫は、綺麗な顔を涙で濡らしながらとても喜んでくれた。

反対に彼女の結婚式では私のほうが泣きじゃくって。もうひとりの親友、沙耶ちゃんが呆れたように笑いながらハンカチで拭いてくれた。

学生時代からずっと一緒だった彼女の輝く美しさと幸せに満ちた表情を見られて、どれほど嬉しかったのか分からない。


「じゃあ、飲み物の追加オーダーしよっか」

そう言った彼女が店員さんを呼ぶ。ふたりともすっきりとした飲み口のセイロンウバを注文した。

彼女は昔から私をひとりにはしない。心配と手間をかけさせてばかりなのに、それが当たり前のことだと言ってのける。

凛とした佇まいの菫は私の大切な親友であり、憧れそのもの。これはきっと一生変わらないと思う。


談笑しながらお茶を嗜んでいると、店内が俄かにざわつくのを感じた。

すぐさま視線を店内へと移せば、颯爽とした足取りでこちらへ近づいてくるスーツ姿の男性を捉えた。

それはこの世の誰よりも愛おしい、拓海その人。見飽きることを知らない私の心臓は再び早鐘を打ち出し始めてしまう。

——どうしようもないほど彼を愛している、と心が告げるように。