「蘭、何かあった?」

賑やかな店内で不意にそう尋ねられた私は、ハッと顔を上げる。

そして向かいから顔を覗き込むように窺う、菫(すみれ)にゆるゆると首を振った。


麗らかな春の陽気に誘われるように、私たちは新作のコスメやお洋服を求めて銀座を訪れていた。

外商を利用するよりも自分の目でお気に入りを見つけたいという菫。そんな親友のおかげで、私の出不精は改善されつつある。

春らしい色味のアイシャドウやリップ、柔らかな素材のお洋服を見つけて成果は上々ね、と非常に満足するものが得られた。

それからショッピングで歩き疲れた私たちは、近くのカフェで休憩することにしたの。

私の目の前にはアイスティーと季節のフルーツタルト、菫はアイスコーヒーと本日のおすすめ2種盛りが置かれている。

彼女いわく、ここは新進気鋭のパティシエで話題の人気店らしい。店内はカフェタイムを堪能する女性たちで席は埋め尽くされていた。


「蘭、聞いてる?」

「え、と……あ!さっきシフォン素材のスカートを買ったでしょう?どう合わせようかなって」

もう一度聞かれたので笑って返したのだけれど、当然のように納得しない彼女の顔は消化不良そのもの。

どうしようと言葉を選んでいるうちに、ピンときていた彼女に言い当てられてしまう。

「もちろん、東条さんのことよね?」と。