『桐原、俺は黒瀬颯斗です』―― あたしのことを、呼んでくれた。 自己紹介を、してくれた。 あたしは驚きと同時に胸が熱くなるような感情を抱いて、そのまま席に座り尽くしていた。 一気にたくさんのことが起こったから、内心軽くパニック状態ともいえるあたし。 でもそんな状態であることは表に出さず、何事もなかったかのように頭を下げた。 「桐原、杏里です」 ぎこちなく聞こえてしまったかもしれない。 顔を上げると、黒瀬先輩が微笑んでいた。