「桜、もう散っちゃうんだね。」

マンションの廊下から下を流れる川を見下ろして君は言った。

「儚いから綺麗なんだろ。一瞬で崩れてしまう様な繊細でか弱い美しさってのもいいもんだ。」

川を流れていく小さな花びらの数は、数日前よりずっと少なくなった。

「でも、こんなに綺麗なのに勿体無いっていうか...ずっと綺麗なままだったら良いのになって。」

心地の良い春風が私達の頬を掠める。

「一気に散ってしまう桜吹雪も綺麗だと思うんだけどな。少しの間しか見られないから、幻想的で美しいんだと私は思うんだ。」

柔らかい日差しに照らされて、川辺では野良猫が鳴いている。

春の象徴と呼ぶには、少し遅い葉桜に別れを告げて。