「あらあら、また虎太郎君にお説教をされていたのかしら?ふふっ、小説の方を拝見させてもらうわね。」

奥の部屋から出てきた女房は、机の上の原稿用紙を手に取って、パラパラと捲り始めた。

「そうね、書き出しは順調だけど、途中から行き詰まって来てるわね。貴方は思い付いた題材を、思い付いた時点で書き始めるもの。その行動力は素晴らしいと思うけど、1度頭の中を整理してから書いてみたらいいと思うわよ。」

女房は優しく微笑みかけながら言った。

「やっぱり、麗子の指摘は的確だなぁ。君は私の事を何でも知っている様だ。」

昭彦は、自分の悪い癖を見透かした麗子に驚いた。

「知っている様、ではなくて知っているのよ?貴方の背丈から、食の好み、他にも色々な事。妻として、当然よ!」

麗子は腰に手を当ててえっへんと威張ってみせた。

「流石、私の妻だね。さてと、誰かさんに怒られる前に、私はこの話の続きを書かなくちゃいけない。今、少しづつやる気が出てきているんだ。」

そう言うと昭彦は、筆を取って文字を綴り始めた。