くぅ「ここで働いてるんスか?」


ブ「そうだ、木を切る。単純な作業だろ?」


くぅ「…ノアも切ってるんスか?」


テ「もちろんだ。なぜノアの事が気になる?」


ノ「あは、もしかして私に気でもありますか?可愛いところあるじゃないですか、童貞くん」


くぅ「ああもう!違うっスよ!!」


正直、ノアに弄ばれるのは嫌だ。どうみても僕より年下だし、女の子だし。ちょっと屈辱。


ブ「お前よりノアの方が確実に年上だからな」


くぅ「ええっ!?」


なんか心を読み取られた!!!


ノ「これでも私、30年くらいは生きてますから。」


死んでからここで暮らしているからだろう。記憶はないが、見た目からして僕は20年も生きていないはず。ノアは高校生だったらしいが―


あれ、ノアはなんでここに来たんだろう?

重大な罪でも犯したのか?


くぅ「ノア、なんで――」


ノ「言いませんよ。…他人に聞かせるような話じゃないですし。」


また心を読まれた。

ノアは俯いた。いつもと表情は変わらないけど、少し、落ち込んだような感じだった。


ヨ「…くぅ、ちょっとおいで」


くぅ「?、分かったッス」


ヨシュアについていくと、人気のない森の奥に着いた。
地獄にしては空気が美味しい。


ヨ「ごめんね、ぼくが言っておけばよかったね…」


くぅ「ノア…どうしたんスか?」


ヨ「ぼくより阿修羅の方が詳しいけど…ノアは、普通の人間で、何の罪も犯さなかったんだ。」


ヨ「そんな人がなんで地獄に来たか。阿修羅から聞いた話なんだけどね―」


ヨシュアは、そこで話すのをやめた。


時間が止まったみたいだ。聞こえるのは、自分が呼吸している音だけ。死んでいるからか、心臓の音は聞こえない。


くぅ「…ヨシュア?」


ヨ「あ…ごめん、なんでもない」


ヨ「じゃあ、続きを話すね。」



なんでもないというのは嘘だと分かっている。ヨシュアがノアの過去を話すのを躊躇していることも。


ヨ「ノアは…自分から地獄に来たんだ。」


くぅ「自分から…?」


自分からとは驚きだ。

現実では地獄のイメージは強い。だから行きたがる人は少ないだろう。

ならなぜ、ノアは自分から地獄に来たのだろうか。


ヨ「…ごめん。ぼくが言えるのはここまでが限界かな。続きは阿修羅に聞いてもらえる、かな?」


くぅ「分かったッス…ありがとうッス」


僕はヨシュアにお辞儀をして、深い森を抜けようと歩き出した。



ヨシュアが見えなくなった。


出口はどこだろうか。


それより阿修羅の居場所は?



くぅ「ああぁもう!出口どこッスかぁぁ!!!」


とにかく叫んだ。助けを求めるように。


誰も来ない。


くぅ「…まぁ、いいや…」


また、とぼとぼと歩き出す。


出口は見えない。入り口さえも見えない。


くぅ「…誰か…いないッスか…」


「痛ぁぁぁぁぁ!?」


くぅ「うわぁぁぁぁぁ!?」


木から何か降ってきた!?
…形は人間、だろうか


「そんな驚かないでよぉぉ…もう」


ミ「私はミラ。よろしく」


ミラ。頭でその名前を繰り返す。

…日本人ではないだろうな。髪は金髪だし、目は青だし。


くぅ「くぅ…ッス。出口どこかわかるッスか?」


ミ「えー、分からないのかぁ…この道をまっすぐ進んで、右に…」


くぅ「一緒に来て欲しいッス」


ミ「めんど」


くぅ「阿修羅に会いに行きたいッス」


ミ「え…」


ミラは、驚いた様子で振り向いた。


ミ「何しに行くの?」


くぅ「―ノアの過去を、聞きに行くんス」


ミ「ノアって……佐藤ノア!?」


くぅ「そうッスけど」


ミ「あの、かの有名なノアだよね?ね?また会いたいなぁ!」


キラキラと目を輝かせて、何度も確認してくる。

・・・・
かの有名な。


ノアは有名らしい。


ミ「あなた新人でしょ?えーずるいよ、私だってヨシュア班に入れないのに!」


くぅ「そんなに有名なんスか?」


ミ「地獄の中でもこれほど有名な班はないんじゃないかなぁ、ってくらい!」


森の中で何を話しているんだろう。

というより道を聞いたのになんでこんな会話になってるんだろう。


そんな言葉が頭の中でグルグルと回る。


くぅ「あの、道を…」


ミ「あぁ、ごめんごめん!阿修羅様に会いに行くなら私も行くよ。」


ミラはそう言うと、くるっ、と向きを変え、歩き始めた。


ミ「今度班のこと教えてよ!私の班の子たち紹介するから!」


くぅ「いいッスよ」



そんなこんなで10分後



ミ「さ、ここが―」



ミ「――地獄谷よ」