どこまで走ってきただろう。
心臓が悲鳴をあげている。
そろそろ、休まないと限界かな…
ラファエルがそう思ったのもつかの間――
先に人影がある。
ラ「まだ、敵がいるのか…?」
ラファエルは銃を構え、ゆっくりと人影の方に向かっていった。
ラ「…フリードリヒ!?」
そこにいたのは、ラファエルと同じ、軍曹のフリードリヒだった。
彼の瞬発力と動きの速さは、軍で勝る者はいないと言われている。
フ「おう、ラファエルか」
ラ「お前…生きてたのか…」
フ「お前の班は全滅か?」
ラ「…あぁ。認めたくないがな」
フリードリヒの部下は4人、生き残っている。
エ「ラファエル様!」
ラ「エメリヒ…」
エメリヒも、フリードリヒの班だった。
そして、生き残っている4人に入っている。
ラ「…これって、意味のある戦いだと思うか?」
フ「はっ、『神に選ばれし者』が何言ってんだ。意味なんてあるに決まってんだろ」
何が神に選ばれし者だ。
殺される側から見れば、俺は悪魔じゃないか。
ラファエルはそう思った。
ラ「仲間が…無駄死にしてんだぞ?」
フ「無駄死に?馬鹿言え。仲間たちの死は、聖なる死だ。ムダなんかじゃねぇ。」
ラ「…無駄だよ。この戦いは負ける。」
フ「お前…何を根拠に言ってんだよ!!!何が負けるだ!!!俺らドイツ軍は勝つに決まってるだろうが!!」
ラ「逆に聞く。お前こそ何を根拠に勝てると言ってるんだ」
フリードリヒは苛立ちを隠さず、ラファエルの胸ぐらを掴んだ。
フ「てめぇ…ふざけんじゃねぇぞ。このまま調子乗ってるとなぁ、俺が――」
エ「フリードリヒ様、やめてください」
エメリヒは静かに、落ち着いた声で言った。
エ「…こんなところでケンカしている場合ですか。私は、ラファエル様の意見が正しいと思っています」
それを聞いたフリードリヒは、顔を歪ませる。
フ「んだよ、てめぇも異端者か?部下のくせして俺に逆らうんじゃねぇよ」
エ「もうすでに230万人の人々が亡くなっています。この戦争に、関係のない民間人も含め…」
エメリヒは、瞳の光を失うことなく、言葉を続けた。
エ「少なくとも、ラファエル様は…」
エ「後輩や部下に、威張り散らしたり、命令したり…そんなことは今までなされませんでした。」
エ「…私は、ラファエル様を信じます!ドイツ軍に捧げたこの命!!ラファエル様に、託します!!!」
エメリヒは、真っ直ぐな瞳で必死にそう叫んだ。
それに対しフリードリヒは、口をポカンと開け、状況が理解出来ていないようだった。
ラ「…エメリヒ」
エ「はい?」
ラ「…やっぱりいい。いずれここも敵に見つかる。早く移動するぞ」

