今日は不運だ。
「へっへっへ、ここの大道芸人サマはよえぇなぁ?え???」
…正直こんな追い詰められたのは、初めてだ。

数時間前に遡る。
オレが、オレたちがいるのは空樹と呼ばれる人工的な木を模造した建物の中だ。
大道芸人は、空樹を登ろうとする人間や、亜人、ケモノを排除するために中で戦うのだ。
大道芸人とは別にピエロと呼ばれる役職もあるが目的は変わらない。
だいたい皆戦闘慣れしているから、倒すことにもされることにもさほどの躊躇がない。
オレも、そうだ。
でも、これは、今はかなりピンチなのだ。

「さぁて、とどめといきますかぁ?」
目の前でにやりと笑う樹の外を望む亜人はその長い爪を舐め、オレに飛びかかってきた。

ちなみにオレは脚に怪我をこいつのせいで負ってしまい立てなくなった。つまり、逃げられない。

やられる!と思った瞬間、聞こえたのは亜人の断末魔だった。

何事かと思い、目を覆う布を少しずらした。
そこにはオレの前に青髪の背の高い青年が立っていた。
守ってくれた…のか…?

亜人はどこかに逃げていった。
青年はため息をはいてオレに手をさしのべてきた。
その顔は見えない。仮面をしていた。
ーーピエロ。
そう確信した。だからその手を払った。
「いい、1人で立ち上がれる。」
「そうか。助けたのに御礼も無しか。失礼じゃないのか。人間として。」
酷く冷淡な声が上から降り注がれ苛立ちを覚えた。
「うるせぇな!!!礼なんてするか!ボクはピエロが大嫌いなんだよ!!助けなくてもあんなの倒せれた!!!」
意地をはってしまう。青年はまたため息をはいた。いかにもこいつめんどいみたいなため息を。
「あそ。…なに、手怪我してるじゃん。治してやろうか?…あ、お前ピエロ嫌いなんだったな。すまないな変なおせっかい。じゃ」
手をふらふらと振り去ってしまいかける。
オレはなぜかそいつを止めていた。
理由はまだわからなかった。
「て…手、治してほし…」
「はぁ、やっぱなんかお前ほっとけねぇな」

「脚と手治したからな。というかあくまでも応急処置みたいなものだからちゃんと帰ったらもう一回巻き直せよ包帯」
名前を聞いた。こいつはシュレンというらしい。冷淡なくせになんか変なヤツ。
「そういえばさ、僕は名乗ったけどお前はなんなの、名前。」
「ウィリアムだよ。ウイリアム・ブーゲンリーテ」
「かっこいいファミリーネームだな、ウィリアムか。覚えておくな」
「ウィル…」
「あ?」
「そ、の!ウィリアムってめんどいだろ?ウィルでいい、ボクの愛称?渾名?みたいなもんだから」
「…おう、ウィル。またな。」
そのままシュレンはどこかへ行ってしまった。

あいつは治療のとき手を握ってくれた。
その手は、温かくて、まるで、あいつ、みたいな、みたいな。

…「ウィル。怪我してる」
…「あはは!気が付かなかったや!!だいじょーぶ!そんな血はでてな」
…「ダメだ。ただでさえお前は溜め込みやすいんだから。治すからこっち来い」
…「あ!待ってよ!!」…

「ギース…みてぇ」
オレは思い出にふけった。
また、オレにはあいつみたいな友達ができるのだろうか。