あたしには密かに想っている人がいる。
「おい、カプリコーネ。オレの邪魔すんな。」
その人は顔は可愛い癖して結構横暴な、そんな感じの人。
名前はピカソ。…えぇかの有名なパブロのピカソと同じ名前の。それもまた同じ画家だったわ。
「やぁね。あたし好きでいるわけじゃないわよ。アンタとあたしは主従の関係じゃない。離れたら離れたでアンタ怒るし」
「はぁ?いつどこで俺は怒った?」
「あーら覚えていないのね。教えてあげましょうかあれは夏の半ばアンタあたしを邪魔って言って追い出したのよ。あん時のあたしはちゃんとどっかへ行ったわ。じゃあ仕事を終えたアンタが走ってきてどこいってんだ!!!とか怒ってきたじゃない」
「きもちわり。そんなに好きなのかよ。この山羊オネェ」
そうやって細かく覚えてるのは貴方だから。なんて恥ずかしくて言えないし。別にきもいなんて慣れっこ。1番私が後悔してるのは紛れもなく人じゃないあたしが人である貴方を愛したことだった。
あたしは何人かと契約の契を結んだ。その中にも恋情を抱いた人は何人か居た。でも、最後はみんないなくなってく。あたしに流れる時間は遅い。けど人は酷く短く見えてしまう。
彼だっていずれは同じ屍となってしまう。
「カプリコーネ!おい!!」
「あ…なにかしら」
「俺ずっと名前呼んでたのにお前なぁ…。まぁいいわそこに座れ。お前をモデルに絵を描いてやるよ」
「…!」
彼は人物を描くのを酷く拒む。だから珍しいと思った。しかもあたしは彼にきもいやらなんやら言われて貶されている。
「お前、きもいけど顔だけは1級品だし、描いても後悔しなさそうだから描いてやる。動いたら…」
「わかったわ。好意ありがたく受け取るわね。」
「なんだ嬉しくなさそうだな」
「嬉しいわよ。動かないかわり1つの質問に答えてくれるかしら」
「ん〜はいはいわかったから。質問ってなんだ」
「そうねアンタ…ヒューリアス・ピカソ、絵を描くのはなぜかしら」
「ピカソだから。みんなに同じだからって言われたからやってるだけだよ。答えただろほら早くそこにたってポーズとれよ」
あぁ、嘘つき。貴方はいつだってそう。
「…」
貴方は黙々と絵を描き始めた。
「あたし知ってるのよ。」
「あー?うるさい黙れよ」
「貴方が絵に執着して描き続ける理由」
「本当にうるさい。途中でやめるぞ」
「貴方はパブロ。そう貴方はあのパブロ・ピカソだってこと」
「んなわけ」
「貴方は犠。契約の代償の願いは好きな人の絵を描くこと。そして貴方は初めて好きになった人を見つけたの。それはあたし。そうでしょう。実の所あたしはあんたが…」
「!!な、なんで…」
「死ぬ覚悟ができたのかしら。まぁいいわ。あたし、貴方が好きよ。だから、描きなさい。これでおあいこ」
涙を貯めた目で悔しさを噛み締め描く貴方は美しくて優美だった。

その絵は完成することはなかったけれど。
彼は、パブロ・ピカソは塗る前に魂を奪われた。用無しだと判断されたから契の糸が切れたのだ。
死体すら綺麗な彼。私が好きになった人で唯一男性だった彼。
「貴方もあたしも人ではなかったのね。でも好きよ。好きだったわ。」
あたしはいつかこの絵が完成させる人が出てくるのをひたすらに待っている。

そして今、見つけたの。だからあたしは……