「よぉ」
病室を訪れた。仕事に暇ができたからだ。
ベッドから体を起こすのは俺の婚約者。名前はレノという。レノは幼い頃から盲目で、不自由な生活を送っていたが、病室で暮らすということでおさまった。
科学が発展しすぎた今、病室に入るだなんてめったにないけれども。
「……ギースね。忙しいのにありがとう。いつもいつも」
レノはふにゃりと顔を歪ませた。うっ可愛い。
「いい匂いするね。花かしら。生花は少し高いのに。嬉しいわ」
「いや、お前のためなら俺はなんだってするぞ。レノにはこの花以上の価値がある」
「素直に喜んでおきましょうか。ふふ」
このなんとも言えない空気がどこか好きだった。レノには俺の顔や、花の色も形も永久にわからないとなると悲しくなることもしばしばあるが俺は彼女といることがそれ以上に好きであったためかそんなことは関係がなかった。彼女自身が心配という二文字が嫌いだからって理由もあるだろう。

レノはどうして俺ということがわかるのか。些細な疑問が浮かんだ。
聞いてみたりした。
「そうね匂いかしら。ギースはね夕日の匂いと生臭い血の臭いが混じってるの。不思議な匂いだしよくわかるわ」
血…か。まぁそりゃ俺は危ない仕事してるしな…仕方ねぇかな。彼女には仕事を言ってないがもうわかられていたみたいだな。彼女は自由ではないかわりに人よりも感覚が鋭いんだろう。もしかしたら心の中とか覗かれるのだろうかとか余計な考えが思いついてしまう。

「ありがとうギース。楽しかったわ」
「そうか。それならいいんだ。」
「最後にこっち」
彼女は俺の手を引いた。思考が追いつかなかったが俺は彼女にキスをされたらしい。
「私が車椅子の花嫁になってもいいならいつか。しましょうね」
彼女はまた笑った
「ばっ…!ここ病室だぞ!?」
「大きな声はダメよ」
「う、お、おう……。結婚は絶対するからな…そん時は王族やめるから俺さ」
「貴方は貴方で。私は私であったらいいの。やめる必要は無いわ」
そうは言われてもと言いたかったがどうやら時間が来てしまったみたいだ。
彼女に手を振り病室を去る。

俺にも彼女にも明日があるのかはわからないのに約束をしてしまったという後悔を知るのはまだ先の話