夏というのは実に嫌な季節だとしみじみ思う。
戸を閉めていてもミンミンジリジリとけたたましいほどの蝉の声。
窓越しにでもわかるカンカンと照りつけている太陽の光。
そこらを行く人たちは皆半袖だが暑そうな表情をしている。
「人はなんでこういう時に限って外に出たがるのか、不思議でならない」
アイスを頬張りながら窓を見る。
ああ、見てるだけで暑い。すぐにカーテンを閉めて窓に背を向けごろんと寝転がった。
「食っちゃねは良くないし、あんた結構不摂生な生活してるんじゃないのー?」
ぱたんと何かが閉まる音がした。きっと今いる友人の声だろうか。
その影がくっきりと見えるようになったのは目の前にその足があった。
「はいこれ、ゴーヤチャンプルー。食わず嫌いも良くないし食べてね。」
「いつもあんがとな〜たく!もう俺お前の婿になりたい」
「ざけんな、つかきもい抱きつくな離れろ!!!」
足首に抱きついたがたく…こと天戸拓巳はその足を乱暴に蹴り回したからかすぐに解けたし痛かった。
「智世さたかが昼飯くらい自分で用意しなよ。まだ玲太くんに上げる昼飯も作らなきゃならないんだから。」
「優先順位やっぱり根岸君なんだなぁそんなに好きなんだ…」
「悪い?」
いーやと俺は一言いうと机の方に向かった。
たくは男だけど男がすき…らしい。別に気にしはしないけど。
あとたく本命いる割にはこっち側にかまってくれるし何かと楽だ。料理うまいし、何でもこなすし、友人にはもったいないぐらいイケメンだ。職場の女子だいたいこいつに惚れてる。無駄、だけどな。
「あ、そういえば智世。明日見学に来る人知ってたっけ」
「ん?ああ!えっと結構田舎なとっからきたやつだよな」
「そそ。それさぁめっちゃ気になるんだよね」
「なんでだ?」
「名字が根岸なの。偶然か必然かわからないけど玲太くんと同じなんだよなあ。顔もそこそこ似てるしもしかしてって思っちゃって」
「へぇ、でもさ根岸くんって幼い頃の記憶あんまり覚えてないんだろ?そうだとしても思い出せなくないか?」
そりゃあ…とたくは顔を曇らせた。そのあとごもごもと独り言をしてから自分の分のゴーヤチャンプルーをほおばった。
そんなに大切なことなのか根岸くんが。
結構前から一緒にいたとか聴いたけど。まぁどーでもいいや。
俺は自分が楽しけりゃいいし。
俺もまたゴーヤチャンプルーをほおばった。
まだ蝉の声がうるさい午後の夏。