「桜庭さんっ!」


待ち合わせの和食専門店の個室
案内されて襖を開ければ
今にも泣きそうな伊藤さんが
立ち上がり私に抱きついてきた

驚いて後ろへ転びそうになるが
小山課長が支えてくれた


メソメソ泣いている伊藤さん
頭をなぜながら
心配かけてごめん、と謝る


自分の事で
こんなにも心配してくれている人がいたなんて知らなかった


…と、思うと
陽子からは何一つ連絡がない
伊藤さんを見ると
陽子は薄情なヤツだと思うが
陽子らしいとも思う



伊藤さんを宥め、食事をしながら
ここ最近の出来事を話した
…というか、質問に答えた


終始、伊藤さんは驚き、怒り、笑いという百面相
それを蔵田課長はニコニコしながら見ていた


「りっちゃんの言った通りだった」



伊藤さんは蔵田課長に笑いかけた
り、りっちゃん?
蔵田課長の下の名前は確か…律樹

…だから、りっちゃん?