どこか不気味な、両目のないビスクドールも一緒にデスクに並んだが、私の興味はそこにはない。

ビスクドールの頭にくっついている目玉も『死せる生者の宝玉』のようだが、私の興味はそこにもない。

私の目が吸い寄せられるのは、ただ一点。

ケースの中でビロードに包まれて輝く、一粒の奇跡の宝玉のみ。

一人で作業させてほしいと言ってコレクターを部屋から追い出した私は…

サクっと宝玉を盗み、サクっと逃げ出した。

元々ネコババするつもりだったから、コレクターに渡した名刺は偽物。

手袋着用の上つけ髭で変装中だから、盗難届を出しても私には辿り着けない。

最後まで呆気なかったナー…

などと、ほくそ笑んだのだ が!

こともあろうに、目のないビスクドールが動き出した。

動き、恨みの言葉を吐き、私を追ってきた。

ナニ『アレ』、KOEEEEEE!!??

もう、ね。
ホラー映画の世界だよ。

いろんな意味で私は逃げた。
両目からも股間からも水分を放出しながら私は逃げた。

物音に気づいて別室から出て、浮遊するビスクドールとぶつかってしまったらしいコレクターの悲鳴を背中で聞きながら、私は一目散に豪邸から逃げた。

うん、大丈夫。
ちゃんと逃げられる。

万が一見つかっても、上手く立ち回ればきっと『アレ』から逃げ続けられる。

予想外のホラー展開にビビって大いに醜態を晒してしまったが、計画に変更はない。

私だけの傍にいて、私だけを見て、私だけを愛し、私だけに従い傅く私の紫乃を、すぐに蘇らせよう。

さぁ…
目を開けて、私だけに微笑んで…