花京院家の愛玩人形


電光石火で石畳を走り。

電光石火で鍵を開け。

電光石火で玄関に転がり込み。

電光石火で鍵を閉めて。

電光石火でチェーンもかけて。

あぁ…
まだ安心できない。

電光石火で階段を上り。

電光石火で廊下を走り。

最も奥にある白いドアを電光石火で開け放ち…

陽当たりのいいその部屋に足を踏み入れた私は、電光石火で出窓を閉め、そして厚いカーテンを引いた。

あぁ、あぁ…
それでも安心できない。

今、窓からチラリと見えたあの男は、真っ直ぐにコチラを見上げていた。

長い前髪に隠した双眸で、確かにコチラを見上げていた。

無様に動揺を晒したのは失敗だったか?

なんのコトだかわからない、と素っ惚ければよかったか?

いや、誤魔化すことは出来なかっただろう。

だって、あの男は知っていた。

『死せる生者の宝玉』を知っていた。

どうして知っているンだ?
いや、ソレは大した問題じゃない。

本当の目的はなんなんだ?
いや、ソレも大した問題じゃない。

そう、大した問題じゃないンだ。

逃げればいい。

男からも。
『アレ』からも。

何もかも捨てて。
『彼女』だけを連れて。

何度だって逃げればいい。