「私以外の男の名を呼ぶな!!
私以外の男に目を向けるな!!
私以外の男に心を許すな─────!!!」
ハイ、残念。
紫乃の願いも空しく、聞く耳を持たない信太郎はヒステリックに喚いた。
ゆっくりと上がっていく、信太郎の拳。
ブルブルと震えるほどに、力が込められた拳。
きっとガスマスクの中の顔は、怒りで真っ赤になっているだろう。
先程の一撃より容赦ない呵責を覚悟しつつも、紫乃は信太郎から目を逸らさなかった。
退く気は、ない。
そして…
退く気がないヤツが、ココにもう一人。
「まぁ、全くの思い違いでもないケド。
僕は恋に溺れてるワケだから。」
紫乃の背後でボソっと呟いた要が。
一酸化炭素中毒で動けないはずの要が。
動いた。
立ち上がりざま振り下ろされた手首を掴んで引き寄せ、前のめりになった信太郎の顎に長いリーチを活かした強烈なアッパー!
信太郎が廊下までフっ飛ぶ。
ついでにガスマスクもフっ飛ぶ。
「ま… ま… まぁ…???」
頭上で起こった一瞬の逆転劇に理解が追いつかず、紫乃は立場が入れ替わった男たちを瞬きしながら交互に仰いだ。
えー、話の腰を折って申し訳ないが、ココで一つ言わせてもらいたい。
人形作家は、決して楽な仕事ではない。
大きな作品になればなるほど力が必要だし、栄養ドリンクを飲みながらの体力勝負になってくる。
かなりの腕力と持久力が求められる、重労働…



