花京院家の愛玩人形


また別の日。
やはり窓は叩かれた。

コンコンっ


「こんにちは」


「お待ちしておりましたわ、花京院様」


「ねェ、いきなりで悪いンだケド。
君の『婚約者』サンは、人形作家だよね?」


「まぁ、本当にいきなりですのね。
えぇ、今は違いますけれど、以前は…
あら?
わたくし、彼の職業なんて花京院様にお話ししましたかしら?」


「したかも知れないし、してないかも知れないケド、それはまぁどうでもいいコトだから。
彼は以前、ビスクドールを作ってたでショ?」


「いいえ。
彼は雛人形などの…
所謂木目込み人形を作る仕事をしておりましたわ」


「あれ?そう?
でも、一階のリビングにかなり大きなビスクドールがいるよね?
あのコ、たぶん棚から落ちたと思うよ。
座らせ方が悪かったのかもしれない」


「え…
なんのことでしょう?
何を仰ってますの?」


「いや、だから。
早く助けに行ってあげないと」


「あの…
リビングにビスクドールなどございませんわ」


「は?」


「ですから、わたくしの知る限り、リビングどころかこの家のドコにもビスクドールなどございませんわ」