花京院家の愛玩人形


目を回すンじゃないかと心配になるほど、ギュンギュン視線を泳がせ。

足元に散らばる画材に気づいて、ナゼかピョコンと飛び上がり。

風を切る勢いで身を屈め、ガチャンガチャンと手当たり次第ケースに放り込んで。

先生のクセに、アンタは落ち着きのないコドモか。

だが、挙動不審はココまで。

先の尖ったペインティングナイフに指が触れた瞬間、コーヅキはピタリと動きを止めた。

彼の脳裏に蘇るのは、レコードの回転数を極限まで落としたような、低くおぞましい声。

 壊セ
 壊セ
 ソウスレバ オマエハ悪夢カラ覚メル

壊せ?

誰を?

誰を誰を誰ヲダレヲダレヲダレヲ…


「今日は包丁ではありませんのね」


コーヅキのこめかみを流れた汗よりも滑らかに、紫信は言葉を紡いだ。

なんて穏やかで、柔らかい声。

そしてどうせ、笑っているンだろう?
顔を上げられないから、見ることはできないが。

目の前にいるのが、自分を襲った男だと知っていながら。

その男が、今また殺意を抱いたと知っていながら。

だからこそ彼女の声は、あの恐ろしい声よりも胸に染み入る。


「…
申し訳ありませんでした…」


床に膝をついたまま、ペインティングナイフに伸びていた手をギュっと固く握りしめ、コーヅキは言った。