「もうこの方も、お戯れの相手にわたくしは相応しくないとご理解くださったでしょう」
クッキリと筋が浮き出た手の甲に、柔らかな掌を重ねて。
「何よりわたくしは、お人形を愛でるためだけにあるこのお優しい手が人を殺めるところなど、見たくはございませんわ」
力を込めた親指に、人差し指の腹をスルリと滑らせて…
「だからおよしになってくださいまし。
もう帰りましょう、要」
「よし、よそう。
もう帰ろう」
チョロすぎンだろ、おい。
実にあっさり殺害予告を撤回した要は、実にあっさりコージを放して本棚の隙間から手を引っ込めた。
ヒョロガリノッポのキモオタとは思えない握力から解放された喉をヒュっと鳴らして、その場に崩れ落ちるコージ。
そんなコージを視界に入れるコトもなく、通路をグルリと回ってやってくる要。
同じくコージを視界に入れるコトもなく、愛らしい笑顔で要に駆け寄る紫信。
「行こう」
「えぇ」
互いに手を差し伸べて、握り合って、軽やかな足取りで…
って、完全無視はあんまりじゃない!?
コテンパンにフラれて、絞め技食らって、挙げ句透明人間扱いされたコージは、立ち上がることもできないまま要の横顔に見入っていた。
そう。
紫信ではなく、要を目で追っていた。



