すぐにでも目の前にあるぷっくりした薄紅の唇にむしゃぶりつきたいケド、ソコは自重。

なんせ娘たちに囲まれてますから。

子連れ狼の悲しさだ。


「…
マリアベールを所望する…」


紫信の膝に顔を埋め、要はボソボソと言った。

瀕死のわりにチャッカリしてンね。

それから、ふーっと深く息を吐き出して勢いよく立ち上がり…


「今回めでたく嫁入りするのは、この、梅子さんと米子さん!
それからソッチのソファーに座った、赤いリボンの二三子さん、瑠璃色の目の亀子さんだ!」


ガラスケースを開けた要は、殊更に声を張る。

うん、動揺を隠せてないよ。

でもコッチはたった今、別の意味で大いに動揺させられちゃったよ。


「…なんですって…?」


紫信は頬を打たれたように愕然と訊ねた。


「ん?亀子さん、わからない?
ほら、ボネを被った松子さんの隣の…」


いやいや、ソコじゃない。

どう見ても西洋人顔のビスクドールにその名前とか、不可解にも程だろ。

今時、純日本人でもあんまいねーよ。

そう言えば『ピグマリオンさん』もある意味アレだし…

ほんとネーミングセンスが不可解にも程だろ。

とにもかくにも。

繊細さや秘密や不可解を内包する花京院家の家族紹介は、これにてオシマイ。