花京院家の愛玩人形


少女は両手を胸に当てて硬直した。

まさかの泥棒襲来…

コンコンっ

と、男が窓ガラスを叩くのが、今度はハッキリと見えた。

小さく開いた薄い唇も…


「スンマセン。
事情は後で話すから、とりあえず中に入れて?
今、スゴく不安定な場所に立ってて、正直怖いンだケド」


え?
コイツ、ほんとに泥棒?

ノックして、入室のお伺いを立てる男が?


「落ちたら僕、死ぬかも」


いやいや…
その高さじゃ、死にはしませんケドも。


(ケガでもしたら、大変だわ)


少女は男を見つめたまま、大きく窓を開けた。

男も少女を見つめたまま、窓枠に膝をかけて部屋に入ってきた。


「…
綺麗だ…」


「なんですって?」


「あー… えー…
なんか… 新聞紙とか、ない?」


片手に持った巨大な黒いコインローファーを軽く振って、男はボソボソと言った。

あー…うん、そうね。

そりゃ、直に床には置けないよネ。
てか、ちゃんと靴脱いで入ってきたのネ。

こりゃもう、泥棒じゃねーわ。