「え??」
融はそう言って、心底驚いたような表情で、香月先輩を見た。
香月先輩が結婚するのが、そんなに意外なことだったのだろうか。
それにしても、さっきの融の発言は、一体何だったのだろう。
あの言葉にどんな意味が込められているのか、私には分からない。
でもきっと、香月先輩には分かるんだろうな。
そう思うと、何だか少し悔しかった。
どれだけ融のことが好きで、毎日一緒にいても、彼は、あの頃のことだけは一切語ろうとしない。
彼が、香月先輩と二人でアメリカへ留学に行った頃のこと。
私は、ちゃんと話したいのに。
柿本大翔とのことも、全部、全部。
――それって、誰のため?俺への遠慮とか?
ねえ、融。
もっと、ちゃんと話してよ。
ちゃんと、私に教えてよ。
どうして私たち、別れなきゃだめだったの?
私には、分からない。
融のことが、何にも。
言ってくれなきゃ、言葉にしてくれなきゃ、伝わらないのに。
それとも、融は私を――。
そう思ったとき、融が不意に口を開いた。
「なあ、ユズ。明日、暇やったりする?」


