「おーい、柚紀?」
「あっ・・・すみません。何ですか?」
「うん。そろそろ行こうかなって」
分かりました、と私は返事をして自分のトランクのハンドルを持つ。
それから香月先輩の後に続いて、空港の駐車場へと向かった。
つい最近、香月先輩は自動車の運転免許を取得したらしく、今日は私たちを乗せて送ってくれるらしい。
香月先輩の車は白のワンボックスで、そのトランクに荷物を積んでもらった。
それから私と融は、後部座席に乗り込む。
香月先輩は運転席に座り、エンジンをかけながら私に話しかけてきた。
「柚紀、どう?向こうでの暮らしは」
「あ・・・楽しいです、すごく」
「でしょ?わたしも、アメリカで暮らしたいなあ」
「先輩は、どうして日本に戻ったんですか?」
「・・・まあ、いろいろあってね」
彼女はそう言って、何だか少し寂しそうな表情をした。
私は咄嗟に、これ以上は踏み込めない、と思った。
私が閉口してしまうと、車内には重たい沈黙が落ちた。
そこで私は必死で話題を探したけれど、こういう時に限って、全く何も思い浮かんでこない。
そして結局、融に気を遣わせてしまった。
「彩って今、何の仕事してるんやっけ」
「え、わたし?近くの診療所に勤めてるけど」
「ふぅん、そっか。忙しいん?」
「まあ、それなりにね。どうして?」
「いや別に、大した意味はないけど。何でアメリカ行けへんのやろ、って」
「ああ、そのことか。わたしは、別にいいの。こっちで幸せに暮らせれば、それで――」
「それって、誰のため?俺への遠慮とか?ふざけんなよ」
「・・・違うよ。わたしね、もうすぐ結婚するの」


