「ねえ、融。家に帰して」
「あ・・・うん。別にエエけど、どないしてん」
「いいから、早くして。私の決心が、揺らがないうちに」
私がそう言うと、融は私の意図を悟ったらしく、すぐにハンドルを切った。
今来た道を、制限速度も全く無視して彼は車を飛ばす。
お陰で、行き道の半分の時間で帰ることができた。
家に帰ってすぐ、私は紙とペンを取り出して、辞表を書いた。
私がその一連の作業を終えるまで、融は何も言わず、黙って私を見守ってくれていた。
そして私が辞表を書き終えると、ようやく口を開いた。
「ようやったな」
彼のその一言で、私の涙腺が一気に緩む。
何で泣くねん。
そう言った融の声は、少し涙を含んでいた。
彼の、そんなところが私は好き。大好き。
神様。
私を融と出逢わせてくれて、ありがとう。
心の底から、私はそう思った。


