そう言うと、彼は私に頭を下げた。
どうして彼は、いつもこうなのだろう。
私の予想をはるかに越えて、常に先回りして、私のことを待っていてくれる。
全身で、受け止めようとしてくれる。
そんな彼が、私は愛しくてたまらなかった。
初めて彼と出逢った、あの日。
あの時から既に、私の中の歯車は回り始めていたのだと思う。
そして今、この瞬間まで一度も止まることなく、そしてこれからもずっと、回り続ける。
好き。
大好き。
私は、彼――三上融が、好き。
初めて、好きになった人。
初めての、恋人。
そんな彼が好きだなんて、少しみっともないだろうか。
でも、それでもいい。
どんなにみっともなくても、だからってこの恋が終わるわけではない。
だったら、貫くしかないのだ。
彼に対して込み上げてくる想いが、涙となって私の頬を伝う。
その雫が座席のシートに零れたので、彼は驚いて顔を上げた。
「・・・泣くほど、嫌なんか?」
「そんなわけないじゃん。・・・分かってるくせに」
「何や、嬉しいんか。紛らわしいやっちゃなあ」
「・・・うるさい」
そんな何気なくて他愛のない会話が、何だかとても懐かしかった。
それから、やっぱり私は彼が好きなのだ、と思った。
いつまでも未練がましく想い続けるなんてと、笑う人もいるかもしれない。
けれど、誰に何と言われても、好きなのだから仕方ない。
「それでも、好きなもんは好きやねん」。
十年前、融が私に言った言葉。
それと今の私の気持ちとが、ぴったりと重なる。
好きなものは、好き。
――俺は、いつでも、ここにおるから。
あれは彼の嘘でも、甘い罠でも、何でもなかったのかもしれない。
私の信じた通り、きっとあれは、あの時の彼の本心。
彼は、きっと、嘘つきなんかじゃなくて。
でも、テンダー・ライアー。
優しい、嘘つき。


