「なぁ、ユズ。ちゃんと、こっち見い」
「・・・うん」
「うんって、返事ばっかりで全然こっち見てへんやろ」
「だってさ、何か――」
「だっても何もないねん。とりあえず、俺のほう向いて。ちゃんと、俺の目見て」
私は仕方なく、一瞬だけ、融のほうを見た。
でもその一瞬を、彼は逃さなかった。
瞬時に私のことを抱き寄せ、頬にそっと、優しくキスをした。
私の心臓は、緊張も手伝って、どんどん拍動の速度を増していく。
この鼓動が、彼に届いてほしいような、ほしくないような。
そんな曖昧な気持ちを抱きながら、私は彼の腕に包まれていた。
香水と汗の混じった、懐かしい匂い。
私はこれから、どうすればいい?
そんなことを思っても、きっと、もう遅い。
一度想いを口にしてしまったら、もう二度と後戻りはできないのだから。


