――ちょっと、ついて来て。
彼が真剣な面持ちでそう言ったので、私は返答に困ってしまった。
ついて来て、って、今から?
こんな夜遅くに、彼は一体どこへ行くというのだろう。
そうは思っても、断るわけにはいかなかった。
私は仕方なく、彼の後について家を出た。
私の住むアパートの駐車場に、見慣れない車が停まっていた。
モスグリーンの、軽自動車。
おそらく彼が乗ってきたものなのだろうとは思うけれど、それにしては可愛すぎる、と思った。
もちろんその車は彼のものだったし、私はそれについては何も言わなかった。
私は助手席に、彼は運転席に、それぞれ乗り込む。
「どこ行くの?」
「どこや思う?」
「分かるわけないでしょ、そんなの」
「まぁまぁ、そない怒らんと」
彼はそう言って私を宥めたけれど、私は別に怒っているわけではない。
彼だって、そのくらいのことは分かっているはずだ。
それにしても、自分が今こうして彼と普通に話しているということが、不思議でならなかった。
驚きというよりはむしろ、懐かしいという気持ちのほうが大きかった。
彼の表情は終始穏やかではあったけれど、さっきから彼は何も話さない。
いくら懐かしいとはいえ、さすがにこのままでは気まずいので、私は思いつくままに言葉を繋いだ。
「あのさ、融」


