そう言って、彼は笑顔を見せた。

私が時折思い出していた、あの、懐かしい笑顔。

その笑顔は、今目の前に立っている彼のそれと、まるで同じだった。


あの頃のまんまだ、と私は思った。

何も、変わっていない。

まるで、私が過去へタイムスリップをしてきたかのような。

それくらい、彼は変わっていなかった。

その事が、私は素直に嬉しかった。


「どうしたの、急に」

「何や、驚いてへんのか」

「そんなこと、ないけど」

「なぁ、ユズ。せっかくの再会で悪いねんけど、ちょっと頼まれてほしいんや」


彼はそう言って、真っすぐに私を見ていた。

彼がわざわざ、十年以上も経っているというのに連絡もなしにここへ来たのは、きっとその頼み事があったから。

必死なんだろうな、と思った。

どうしても、誰かを――たとえ、それが元恋人の私であったとしても――頼らなければならないのだろうな、と。

だから私は、彼の頼みごとの内容を聞くより先に、頷いていた。


ほんまにエエんか、と彼は何度も私に訊ねた。

その度に、私は頷いた。

彼の要求が一体何なのかを、知りもしないで。