「ユズキ、今日何か用事ある?」
「え?別にないけど。それと、その呼び方、やめて」
「何で?いーじゃん、別に。他の奴にもユズキって呼ばせれば」
「そういうことじゃなくて」
「あー、はいはい。わかりましたよ」
「ほんとに?ほんとに、ちゃんと分かってる?」
「分かってるって。・・・じゃ、今日の午後六時、駅前で。それじゃあね、センセ」
そう言うと、彼は私に背を向けて、教室へと戻っていった。
あれが、あの頃のヒロト君と同一人物だなんて。
何と生意気に育ったことか。
あの頃の、純粋で無垢なヒロト君は、一体どこに消えていってしまったのだろう。
時計を見ると、次のチャイムまであと五分しかなかった。
私は慌てて職員室に戻り、次の教室へと向かった。
けれど教室に着いたのは、チャイムが鳴った一分後。
私の調子が狂ったのは、柿本大翔のせいだ。


