名前までは覚えていないけれど、確か彼は一年五組の生徒だ。


「どうしたの?」

「あの・・・オレのこと、憶えてる?」

「え?前に、どこかで会ったっけ」

「うん。ていうか、マジで憶えてない?」

「うん・・・ごめん。えっと、名前は――」

「柿本大翔」

「ヒロト・・・。あっ、もしかして、ヒロト君?」

「ほら。やっぱり、ユズキだった」


そう言って、彼はにっこりと微笑んだ。

まさか、こんな偶然があるなんて。

もう何年も前のことだというのに、あの頃のことが記憶の波となり、私の心に鮮やかな色を携えて押し寄せてきた。


――ぼく、ぜったい、トールとユズキのこと、わすれないからね。

――俺もおまえのこと、絶対忘れへん。約束や。


その約束を、融は、今でもちゃんと守っているだろうか。

私は、守れなかった。

彼がこうして私に話しかけてくれなければ、私はきっと、一生ヒロト君を思い出すことはなかっただろう。

ごめんね、と私は心の中でヒロト君に謝った。