今でもまだ、彼が好き?想ってるから?
ううん、違う。
彼への想いは、別れた時にきっぱりと捨て去ったはずだ。
だったら、なぜ。
最初の恋人だったから、という理由でもない。
――ユズ。
記憶の中の彼はいつも、笑顔で私の名前を呼んでいた。
別れ話をした、あの日でさえも。
だから、なのだろうか。
だから、思い出してしまうのだろうか。彼の事を。
私はコーヒーを飲み干し、ソファから立ち上がる。
その時だった。
もう夜もすっかり更けているというのに、玄関のドアチャイムが鳴ったのだ。
こんな時間に、一体誰だろう。
そう思いながら、私はドアに開けられた小さな覗き穴から外の様子を伺った。
そして、ドアの前に立っている人を見て、私は息を呑んだ。
それから、すぐにドアを開ける。
「久しぶり、やな」


