10時02分。
予定時刻ぴったりに、飛行機は無事、着陸した。
飛行機を降りた人たちの波に、私は危うくのまれそうになる。
そんな私の耳に、ふと、懐かしい声が届いた。
「ユズ!」
「あっ、おかえりなさい!」
「おう、ただいま。帰ってきたで」
「うん。ね、お土産は?」
「あるある。そない心配せんでも、ようけ持ってきてあるから。なぁ、彩」
そう言って、融は隣に立っていた香月先輩のほうを見た。
彼女は相変わらず右の頬だけにエクボを作って、相槌を打った。
融が日本を発った、その当日。
私は、融と一緒に香月先輩もアメリカへ留学に行くのだということを、初めて聞かされた。
正直、私はそれが少し悔しかった。
これからは私ではなく、香月先輩が、彼の傍で過ごすのだと思うと。


