僕が1番端に座って、沙月が右隣に腰を下ろす。
まだショーが始まる時間まで十分すぎるくらい時間があって。
それを確認してから、ふと口を開いた。
「さっき月みたいに綺麗になりたいって言ってたけど、沙月が学校でなんて呼ばれてるか知ってる?」
「えー、…不登校女的な?」
「違うよ、“月光の姫”って呼ばれてる。」
きょとんとした彼女を見て、前を向く。
海をバックにした水槽が鮮やかに水色の液体を包んでいる。
青空と海と水。僕の目には今、青しか見えない。
「入学式に来た沙月がすごく綺麗で、だけど月みたいに儚くて。月光のように姿を現さない。だから、月光の姫。」
「…ふふっ、なにそれ。私、姫なんかじゃないのに。」
彼女はすごく美人だから、そのあだ名が似合うと思っていた。
月みたいに手が届かなくて、まるで雲の上の存在。
だけど、ある一点以外は僕と同じ人間だった。
「…でも、行ってみたいなあ、学校。ちゃんともう一回。」
「……それは、後悔、なの?」
「学校行けなかったこと?後悔だよー、永遠の。」
ケラケラと笑う彼女が気になって視線を横に向ければ、彼女も目の前の青だけをみていた。
その瞳には、なにが写ってるんだろう。
「…だったら、行ってみればいい。沙月ならみんな待っててくれると思うけど。」
「んー、どうかなあ。だって私、入学式以来行けなかったし。」
「僕の友達もいるんだ、松坂っていってやかましいけど良い奴だよ。」
それは楽しそうだなあ、と笑う彼女に安心する。
松坂は沙月と会ったら絶対うるさいけど、でも、沙月が笑ってくれるなら別にそれでもいいかとさえ思う。


