サッと離れて、沙月から目線を逸らす。
振り返ってこっちを見られている気がしたけどそっちを向けるわけがなかった。
手の甲で口元を押さえて、ふいっと横を向いたけど、顔に集まる熱が消えそうにない。
「…照れてる?」
「ほんとやめて…。」
沙月の一言にうなだれそうになると、クスクスと笑う声が聞こえる。
キッと睨めば、嬉しそうに笑った彼女が見えた。
「…でも、ありがとう。支えてくれなかったら転んでたよー。」
「…沙月の体が傾いてバランス崩すの本当に心臓に悪いからやめて?」
「あー…、それ屋上で見た景色と被るから?…ごめんね、でも大丈夫だよ。」
そういう問題じゃないって言いたかったけれど、彼女の笑顔を見ていたらどっちでもいい気がしてきた。
僕が黙ると降参したと思ったのか、方向を変えて今度こそしっかりと空席へ向かう。
その背中を見ながら、なんとなくその細い腕を掴んで引き寄せたくなった。
…そうだ、最近あまりにも一緒にいすぎて忘れてしまっていた。
沙月は、死なない。なのに、すごく儚い。


